【小ネタ】とある恋の始まりのお話。
何時の間にか綻んだ淡いつぼみを見上げながら、芝生の上に寝転ぶ。
花見にはもう少し遅いが、こんな暖かい日の午後だ、たまには休息も悪くない。
浴衣の袖が、温くなった風に煽られて膨らむ。
ん?なんで浴衣なのかって?
その辺はほら、あれだ、風流ってやつ?
花見にだって雰囲気は必要ってことで。
どっかのレラン嬢の倉庫からくすねてきた酒と。
同じく少々拝借してきた肴と。
ちょいと贅沢に、一人花見酒。
舞い散る淡いピンクの花びらの中に、ふと違う色を見つけた。
無数のピンクに混じる、白。
花びらとは違う軌跡を描いて舞い落ちるそれは。
振り仰いだ、一番高い枝の先。腰掛ける少女の背中。
桜に紛れてふわりと広がる純白の翼から、はらりと零れ落ちていた。
目が、合う。
馬鹿みたいに見つめる不躾な視線にも、一つ笑顔を返して。
彼女は腰を浮かし、捕まる枝から手を離す。
「ちょ……!!」
その時確かに。
飾り物であるはずの翼が、ばさりと動いて。
彼女の足を、柔らかく地上に戻した。
上げた声に、一度だけ振り向いて。
樹の上と何ら変わらない顔で、涼しく笑う。
その笑顔が、キラキラ光る粉を撒き散らしながら消えて。
その瞬間。
俺は天使に恋をした。
花見にはもう少し遅いが、こんな暖かい日の午後だ、たまには休息も悪くない。
浴衣の袖が、温くなった風に煽られて膨らむ。
ん?なんで浴衣なのかって?
その辺はほら、あれだ、風流ってやつ?
花見にだって雰囲気は必要ってことで。
どっかのレラン嬢の倉庫からくすねてきた酒と。
同じく少々拝借してきた肴と。
ちょいと贅沢に、一人花見酒。
舞い散る淡いピンクの花びらの中に、ふと違う色を見つけた。
無数のピンクに混じる、白。
花びらとは違う軌跡を描いて舞い落ちるそれは。
振り仰いだ、一番高い枝の先。腰掛ける少女の背中。
桜に紛れてふわりと広がる純白の翼から、はらりと零れ落ちていた。
目が、合う。
馬鹿みたいに見つめる不躾な視線にも、一つ笑顔を返して。
彼女は腰を浮かし、捕まる枝から手を離す。
「ちょ……!!」
その時確かに。
飾り物であるはずの翼が、ばさりと動いて。
彼女の足を、柔らかく地上に戻した。
上げた声に、一度だけ振り向いて。
樹の上と何ら変わらない顔で、涼しく笑う。
その笑顔が、キラキラ光る粉を撒き散らしながら消えて。
その瞬間。
俺は天使に恋をした。
【小ネタ】闇夜の円舞曲。
夜に生きるイキモノ達さえ、息を潜める闇の中。
切り取られたかのように、淡く浮かぶ白い肌。
彼女の後ろ……影のように寄り添う男の黒い指先が、細い首筋をすっと撫でる。
闇の中に浮かぶ、赤い三日月。そこから覗く、不自然な程白い、キラメキ。
白い首筋に、更に白いそのキラメキが押し当てられる。
肌に切り取られた赤い三日月が、笑みの形に歪む。
「大丈夫だよ。なるべく、痛くしないであげるから」
男の声が、そんな言葉を囁く。
彼女は、動かない。いや、動けない。
背中から抱き締められた姿勢のまま、細い右腕だけが。
何かに操られたかのように、何もない闇に向けて伸ばされる。
その手には、ルージュ・フルール。
宵闇の中ですら、変わらず甘い香りを放っていたその花は。
後ろから彼女の手に添えるように伸ばされた、男の指先が触れた途端。
色褪せ、輝きと香りを失い、砂となって消え去った。
切り取られたかのように、淡く浮かぶ白い肌。
彼女の後ろ……影のように寄り添う男の黒い指先が、細い首筋をすっと撫でる。
闇の中に浮かぶ、赤い三日月。そこから覗く、不自然な程白い、キラメキ。
白い首筋に、更に白いそのキラメキが押し当てられる。
肌に切り取られた赤い三日月が、笑みの形に歪む。
「大丈夫だよ。なるべく、痛くしないであげるから」
男の声が、そんな言葉を囁く。
彼女は、動かない。いや、動けない。
背中から抱き締められた姿勢のまま、細い右腕だけが。
何かに操られたかのように、何もない闇に向けて伸ばされる。
その手には、ルージュ・フルール。
宵闇の中ですら、変わらず甘い香りを放っていたその花は。
後ろから彼女の手に添えるように伸ばされた、男の指先が触れた途端。
色褪せ、輝きと香りを失い、砂となって消え去った。